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廃用症候群について

「寝たきり」というものは、なっていくものではなくて、「寝かせたまま」にしていることで作られたものだ。

間の身体的・精神的機能は使わないと衰えて行くことが知られています。健康な人であっても、安静で寝たままの生活を送っていると、筋力はどんどん低下し、さまざまな症状が現れてきます。

これまでは、病気の人は寝かせておかないといけないし、安静が大切であるというような常識がありました。けれど、これはアメリカなどでは早いうちから、起こしていくことが大切だということは、言われてきたのです。
もちろん、反対意見はたくさんあったと思います。唾液を誤嚥したり、あるいは、お年寄りの骨粗鬆症の方の骨折などのリスクも確かにあります。
しかし、かなり長い間、寝たきりであっても、起こしてゆくことにより改善していく人が多くあって、今では、寝かしたままにしておくと廃用症候群という状態になるのだということが、広まってきました。

実は、わたしたちの体は、常に重力の刺激に抗して体を支えています。このことが私たちの体には、とても大切なことなのです。筋力を維持するだけでなく、関節を動かさせ、骨に刺激を与えて丈夫にしているのです。もうひとつ言われていることは、頭の重みがしっかりと背骨にかかるようにすることの大切さです。座位をとっただけで、何日かの間に、意識障害が改善したという例はいくつも報告されています。

起きていると、足が低い位置になり、頭は高い位置になります。そのことが、心臓を活発に活動させて血液を送り出すことにつながります。また、胸郭が動きやすくなり、肺にもより多くの空気がはいることになります。また、脳幹は体の重心を感じることで活発になると言われています。さらには、座ることでバランスを取ろうとすることが、脳幹の働きには重要になってきます。脳幹は生きる部分での大本ですから、内臓をきちんと動かすことや、手や足に刺激を送る上でもとても重要なものなのです。
よく例にあげられるは、無重力状態にいる宇宙飛行士の話です。宇宙空間という無重力の状態の中で過ごすと、たとえ1週間程度でも、重力のある地球にもどると、歩くどころか、立つことすらできなくなっています。宇宙飛行士が絶え間なく運動を続けるのはそのためです。

寝た状態が長く続くと、重力などの刺激を受けなくなって、筋力が低下し、関節は固まり、骨がもろくなり、精神的活動も低下し、嚥下などにも障害が起こってきます。つまり、筋力低下、筋萎縮、関節拘縮、骨そしょう症、心肺機能低下、起立性低血圧、精神的活動の低下(認知症の進行)、じょくそう、尿路感染、うっ血性肺炎などさまざまな病気を引き起こすことになるのです。
そのようなことを考えてみると、「寝たきり」というものは、なっていくものではなくて、「寝かせたまま」にしていることで作られたものだということがわかってきます。

そういう意味でも、できるだけ、頭の重みをしっかり背骨に載せるようにして、車いすなどで座るということはとても大切なことです。
関節が固まらないように、関節可動域の訓練を行っても、寝たきりにしておけば、関節は固まってきます。自分の足で踏ん張って筋力を使わないと、関節は働かないのです。
車椅子に座れば、膝や、股関節、足首が直角に曲がります。振動によって、関節に力が働き、足首の尖足の予防にもなります。また、寝たままで拘縮された肘も重力で自然と伸ばされていきます。その他にも、車椅子に乗ると、背筋力がついたり、首の筋力も使うことになります。移動することで、精神にも大きな刺激となっていき、車いすは乗るだけでもとても有効なリハビリと言えると思います。

清音クリニック院長 長谷 敏明

長谷敏明先生プロフィール

1979年 岡山大学医学部卒業 京都桂病院、倉敷中央病院 玉島中央病院 に勤務後、2005年11月 清音クリニック開設、現在に至る。
永年循環器領域にたずさわり、漢方を取り入れ、患者さんご本人やご家族の心に寄り添った治療をというのが長谷先生の理念でもある。
また、「べてる」(http://bethel-net.jp/)の応援にも長年携わり、「白雪姫プロジェクト」にも、大きな力を注いでいる。
2012年12月8日に岡山で開催予定の、1000人規模の「白雪姫プロジェクト」の講演会を有志と企画。

清音クリニックホームページ http://www.kiyone-clinic.jp/hp/